視力矯正

視力矯正の手段

近視、という状態は、光は網膜の手前で像を結ぶため、網膜上ではぼやけます。
それをクリアな視界にするには矯正が必要になります。

眼鏡・コンタクトレンズの装用

眼鏡・コンタクトレンズによって矯正された光は網膜上に結像します。

レーザー矯正手術

角膜の形状を変えれば屈折矯正ができるという概念に基づき、レーザー工学というコンピューターテクノロジーが結びついて生まれた技術です。

レーシック Lasik

 レーシックとは、「エキシマレーザー角膜屈折矯正手術」の通称で、目の表面の角膜にエキシマレーザーを照射し、角膜の曲率を変えることにより視力を矯正する手術です。
 角膜の表面を薄くスライスし、フラップと呼ばれるふたのようなものを作ってからレーザーで角膜を削るので、手術後の傷を保護することができます。そのため、痛みが少なく視力の回復が早いのが特徴です。
レーシックには種類があり、当院では「エピレーシック」を推奨しています。

眼科用エキシマレーザーは、その性質が屈折矯正手術に極めて適しています。

エキシマレーザーの特性は、(1)熱を発しない、(2)大きなエネルギーを持つ、(3)エネルギーが水分に吸収されやすい、(4)発ガン性がない、の4つです。

レーシック、という新しい手術方法

近視矯正手術で現在最も一般的に行われている手術方法はレーシック(LASIK)です。御存じの方も多いと思いますが、この方法はマイクロケラトームという特殊な器械で角膜の表面から100~150ミクロン(1ミクロンは1000分の1㎜)の深さの位置で角膜を層状に剥離し、出来上がった角膜フラップを持ち上げてその下の角膜ベットにレーザーを照射したのち、角膜フラップを元に戻す手術方法です。角膜は構造的に左図のように、前方から、角膜上皮(厚さ50μm)、ボーマン膜(10μm)角膜実質(400~500μm)、デスメ膜(10μm)、角膜内皮(5μm)の5層からなっています。LASIK手術はこの角膜実質を切開し角膜フラップを作るわけです 。

エピレーシック(Epi-LASIK)とは、

エピレーシック(Epi-LASIK)は、角膜フラップを作成するのはLASIKと同じですが、角膜フラップの厚さが違います。つまりケラトーム(写真)というさらに特殊な器具を用いて、角膜上皮をボーマン膜の直上で機械的に鈍的に剥離(刃で切開するのではないためより安全といえるでしょう)し、角膜上皮のみを角膜フラップとして使用するという方法です。従って角膜フラップをさらに薄くすることができます。また剥離された角膜上皮シートは正常な細胞で構成されていますから、そのまま角膜ベットを覆い生着していくことになります。

エピレーシック(Epi-LASIK)のメリット・デメリット

- メリット -

角膜フラップを薄く作る事ができるということは、もともと角膜が薄い患者さんや強度の近視に対しても手術の適応が拡大することになります。

- デメリット -

Epi-LASIKでは角膜上皮をシート状に剥離し、死滅していない正常細胞がレーザー照射面を覆う事になります。角膜上皮は正常でも約一週間で入れ代わり(turn over)ますが、その間、角膜表面は粗造となりますから、痛みが生じたり、また視力の回復が遅れるのはやむを得ません。

他の手術との比較

レーシック(LASIK)

レーシック(LASIK)は角膜フラップを角膜実質つまり角膜の中間位置で作成しますから、レーザーを照射したあとの角膜ベットが十分な厚さで残さないと角膜の強度が少なくなります。術後に角膜が極端に薄くなると角膜が前方に突出してきて近視に戻ってくる可能性があり、したがって角膜が薄いとか近視度数が強い場合にはLASIKが不可能なことがあります。また格闘技を趣味にされる方などは角膜の強度を十分に維持しなければなりませんのでPRKやLASIK などの方法を選択していました。

PRK

(PRKについてはこちらをクリック)PRKは角膜表面からレーザーを照射しますから術後の角膜の厚みはLASIKより厚くなります。したがって角膜の強度は十分に確保されますから強度の近視や角膜が薄い患者さんにも適応とすることができました。しかし角膜表面に一時的にせよ角膜上皮を切除してしまったり視力の回復が遅れたりという問題があります。また、術後3ヶ月あるいは半年以上経過した時点で軽い近視に戻る率がLASIKと比較してやや高いこと、またヘイズといってレーザーを照射した角膜部分が術後に混濁する例(写真)が僅かにあり、その発生が事前に予測できないという問題点がありました。

ラーゼック(LASEK)

ラーゼック(LASEK)は角膜上皮をアルコールで膨化させてボーマン膜と角膜上皮との接着力を弱め、膨化した角膜上皮をシート状に剥離して角膜フラップとして使用する方法です。角膜上皮のみを薄く剥離できますから基本的にはPRKと同様の手術方法といえます。しかし角膜上皮はアルコールによって死滅した細胞で覆われることになりますから、その細胞が正常細胞に置き換わるまでは痛みがあったり視力の回復が遅れたり、という問題点があります。Epi- LASIKで作成した角膜上皮シートは正常細胞ですから術後にはそのまま生着するという違いがあります。

イントラレーシック
(Intra-LASIK)

イントラレーシック(Intra-LASIK)は極超短波長のレーザーを適当にセットした厚みの角膜実質内に照射し角膜フラップを作製し、従来の LASIKを行うという方法です。LASIKは刃で機械的に角膜フラップを切開作成しますが、Intra-LASIKはレーザーで角膜実質内部の組織を蒸発させます。したがって組織反応はLASIKと比較して当然強くなり、術後の角膜フラップの切開部分は強く混濁し(写真)、角膜自体が全体に牽引され歪みが生じる可能性があります。また角膜自体がレーザーのエネルギーで角膜メルティング(融解現象)を起こした報告もあります。

PRK(photorefractive keratectomy)手術とは、レーザーによる近視・遠視・乱視を治療するための屈折矯正手術で、通常のLASIKと違い角膜フラップを作成せずに行います。
フラップを作成しないので、上皮が再生(1週間程度で徐々に再生します)するまで痛みが続く場合がありますが、角膜が一枚の組織として再生するのでフラップがずれたり、剥がれたりする心配がないというのが、激しいスポーツをされる方にはメリットとなります。

エキシマレーザーで角膜の表層をミクロンの単位で精密に削り、角膜のカーブを変えて屈折を改善します。

視力の変化

 LASIK、PRK、Epi-LASIKの簡単な視力の変化を図に示しました。

 LASIKは術後翌日から比較的良好な視力の回復が普通で、殆どの患者さんは手術翌日には1.0あるいは1.2以上の裸眼視力を獲得できます。視力の安定は約1週間で可能です。その後長期でみると若干近視へ戻る例もありますが、 1.2以上の裸眼視力を獲得出来る確立は97~98%といってよいでしょう。

 PRKは手術直後には角膜中央にレーザー照射による傷がありますから、その傷が修復するまでは視力の回復が遅れます。裸眼視力が1.2以上に回復するのに概ね3~5日、裸眼視力が安定するのに1週間から3週間程度が必要です。術後1ヶ月から半年するとHazeの発生する例や僅かに近視に戻る例があり、長期に見た場合1.2以上の裸眼視力を獲得する確率は約90%程度で、LASIKより低くなります。このことが、可能な限りはPRKよりLASIKを選択する一番の理由です。

 Epi-LASIKは術後早い時期での視力回復はLASIK、PRKと比較してもっとも遅れます。角膜表面は正常角膜上皮のシートで覆われていますが、完全にシートが生着するのは時間が掛かるためで、1.2以上に裸眼視力が回復するのは1週間から2週間、視力が安定するのに1ヶ月程度は必要です。しかし PRKのような近視への戻りやHazeはなく、長期の視力経過では僅かに近視への戻りはありますが、ほぼLASIKと同様な視力結果で、1.2以上の裸眼視力を獲得出来る確率は97~98%といってよいでしょう。

ICL ICL

 眼内レンズは、一般的には白内障によって視力が低下した患者さんが白内障手術を受けて濁った水晶体を取り除いた後に、水晶体の替わりに入れるプラスチックやシリコン・アクリル製の人工レンズのことを言います。
一方、水晶体は温存し眼内に人工レンズを移植して屈折を矯正することも可能です。これがICL(Implantable Collamer Lens)という特殊な人工レンズです。 ICLのImplantableとは「眼内に移植できる」、CollamerとはHEMAとコラーゲンの共重合体素材(コラマー)を現す造語、Lensはまさにレンズのことで、その名(有水晶体眼内レンズ)の通り近視や乱視を矯正する目的で正常な水晶体のある目に挿入する眼内レンズです。ですから水晶体を摘出するわけではありません。簡単に言えば、近視の患者さんが装用しているコンタクトレンズが眼球に入ったと想像してみて下さい。

ICL概要

左上の写真がICLです。大きさは全長11.5mm~13.0mmで角膜より一周り大きなサイズです。左下の写真は眼球内に挿入されて固定されたICLの模式図です。

ICLは眼球内に縫い付けるのではなく、虹彩の奥で水晶体の前のわずかなスペース内に挿入します。角膜あるいは強角膜の長さ3.5mmの小さな切開創から眼球内に挿入します。

ICL手術に適しているのは

LASIKなどの近視矯正手術を希望しても角膜の厚さが不十分の場合が手術の対象となります。
実際に角膜の厚さと近視の度数の関係を表に示すと下のようになります。

近視の度数が強くても角膜の厚さが十分であればLASIKは可能です。しかし角膜が薄い場合には、たとえ近視度数が弱くてもLASIKが不可能なことがあり、その時にはEpi-Lasikを選択することになります。もちろん、角膜が厚かったとしても近視度数が極端に強ければLASIKもEpi-LASIKも不可能な場合があり、その時にはICLの適応となります。

概ね500μ(0.5mm)以下の薄い角膜の場合、また近視度数が-10Dを越えるような強度近視の場合にはICLの適応と考えられます。最近では角膜の厚みが厚くてLASIKが可能でも、強度近視では術後のハレーションや夜間視力の低下する可能性を考慮してICLを選択する例が増えています。その理由は、角膜の曲率(カーヴ)を変化させる手術ではありませんから眼球に入る光が散乱する可能性が少ないこと、また虹彩の後方にレンズがあるために自然な眼球の形状に近いことが上げられます。さらに近視度数は軽くても、例えば円錐角膜のように角膜自体に疾患がある場合には、角膜を手術することはできませんから、その近視を矯正するにはICLの適応と考えられます。ICLは眼内に人工のレンズを挿入するので、角膜そのものを操作するのではないからです。

LASIK、Epi-LASIKなどの他の手術との違い

- メリット -

  • LASIKでは矯正できない強度近視でも手術可能
  • 角膜が薄い場合や円錐角膜のリスクの高い症例でも手術が可能
  • 強度近視でのLASIK手術後に見られるコントラスト感度の低下やハロー・グレアの発生が少ない(夜間の見にくさや光の乱反射が軽減される)
  • LASIKで起こりうる術後近視への軽度の戻りが少ない
  • 強度近視の場合でも正常眼により近い眼球構造を維持できるため、手術前より最大矯正視力の向上が見られることがある。
  • LASIKでのフラップ作成による角膜知覚・ドライアイの発生率が少ない
  • レンズを摘出して元の状態に戻すことが可能

- デメリット -

  • 価格が高額
  • 手術に高度な技術を要する(手術施工の資格を要する)
  • LASIKと比較して症例数が少ない(強度近視などの適応症例が少ない)
  • LASIKと比較して手術の歴史が浅い
  • 軽度近視、強度の乱視に対しては適応を外れる場合がある

ICLの適応と特徴・禁忌

- 適応と特徴 -

  • LASIK・Epi-LASIKでは完全矯正できない強度近視や角膜が薄い症例に適応
  • LASIKは角膜を削るので手術前の状態に戻すことは不可能だが、ICLは必要に応じて摘出することが可能
  • 円錐角膜など角膜そのものに疾患がある症例でも手術可能
  • 【適応】2010年4月現在 ICL適応ガイドライン
    • 近視度数:-6.0D以上
    • 乱視度数:-2.5D以下(強度乱視の場合も手術は可能だが、厚生省未認可のため今後は適応拡大予定)
    • 矯正視力:1.0以上
    • 年齢:原則的に21歳以上45歳まで(老眼の可能性を考慮して)
    • 角膜内皮細胞密度:
      年齢21歳~=-2800個/mm以上
      年齢36歳~=-2200個/mm以上
    • 十分なインフォームドコンセントを受け、手術の内容を理解していること

- 禁忌あるいは注意を要する場合 -

  • 眼の病気(角膜・虹彩・瞳孔・眼内疾患・網膜疾患・白内障・緑内障など)がある場合。具体的な疾患の適否については医師にお聞き下さい
  • 角膜内皮細胞数が2,000個/mm以下で角膜に対する影響が考えられる場合
  • 角膜前房深度(角膜裏面と水晶体の距離)が2.8mm未満
  • 散瞳不良(散瞳後の瞳孔径は8.0㎜以上が望ましい)
  • 隅角(角膜裏面と虹彩の距離)が極端に狭い場合
  • 妊娠中・授乳中
  • コラーゲンに対する過敏症
  • 医師の説明が理解できない
  • 屈折矯正手術が許されない特殊な職業あるいは環境

手術の安全性について

ICLは2010年に厚生省から近視矯正手術の一手段として認可されました。欧米ではすでに10年以上の臨床実績があります。
また欧米とくにアメリカでは年間1万例以上の手術実績があり、その安全性は既に確立されているといってよいでしょう。しかし手術である以上、以下のような合併症の可能性がないとはいえません。

1.ぼやけて見える
手術直後から視力の改善はおそらく実感できるでしょう。しかし手術による術後炎症によって生じた角膜浮腫(角膜が一時的に白く混濁する状態)などの影響で全体的にかすんだり、ぼやけたりすることもあります。炎症が軽快するまで1週間程度必要となる場合があります。
2.矯正不足・過矯正
屈折度数を100%の精度で調整することは事実上不可能で、そこまでの精度はICLにはありません。したがってICLを挿入した後に遠くや近くを見る際には薄い眼鏡が必要となる場合があります。また、必要に応じて度数の異なるICLと交換する必要があることもあります。
3.痛み・異物感
手術による刺激で痛みや異物感を自覚することがあります。術後数日でほとんど消失しますが、暫く持続することもあり、点眼・内服が必要となることもあります。
4.結膜下出血(白目の出血)
手術の際には結膜あるいは角膜を一部切開してICLを挿入しますので、結膜血管から内出血することがありますが10日~2週間で自然消失しますし、視力や眼球への影響はありません。
5.感染症
ICLを挿入した切開創が完全に接着するまでに、傷口から細菌感染を起こす可能性が皆無とはいえません。(発生率0.0016%)その場合には抗生剤の内服や点滴、程度によってはICLの摘出が必要になることもあります。ICL手術だから感染の危険性が高いわけではなく普通の眼科的手術と同じ考え方でかまいませんが、手術部は清潔に保つように注意が必要で、術後しばらくは感染予防としての抗生物質の点眼が必要です。
6.眼圧上昇
手術操作上で眼球維持のために特殊な薬剤を使用します。その薬剤の影響で一時的な眼圧上昇や、また手術後の炎症反応によって眼圧が上昇することがあります。予防的に薬剤を使用し、眼圧上昇の際には点滴・内服をすることがあります。
7.ICLの位置の異常・瞳孔の変形
ICLは虹彩の後方に挿入し固定します。虹彩に縫い付けるのではありませんが眼球のサイズと比べて大きすぎる、あるいは小さすぎる場合があります。その場合にはICLと水晶体の間隔が広すぎたり、逆に狭すぎたりします。その場合にはICLのサイズ交換や位置修正の手術が必要になることもあります。
8.乱視の増強・矯正視力の低下
ICLを挿入する際の切開あるいは縫合のために乱視が出現することがあります。また手術前に比べて最高矯正視力が1~2段階低下することがあります。
9.白内障の発生(水晶体の混濁)
白内障の発生は年齢的な要因も影響しますので、ICLが原因とは一概に言えない部分もあります。過去のデータでは年齢的な要因を加味してもその発生率は0.4%といわれています。視力に影響しない程度のものであればそのまま外来で経過観察して構いません。もし進行して視力障害を起こした場合にはICLを摘出し白内障手術が必要になることもあります。暗い所では瞳孔が開きます。瞳孔径がICLの直径(5~6mm)より大きくなる場合、にじんで見えたりICLの影が見えたりすることがあります。
10.その他
安全性はほぼ確立しているとはいえ、他の眼科手術と比較するとその歴史はまだ浅いといわざるを得ません。まったく予期せぬ合併症が起こりうる可能性もあることをご了解下さい。

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